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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)9976号 判決 2000年9月21日

原告

硲トキ子

ほか三名

被告

浦島孝行

主文

一  被告は、原告硲トキ子に対し金七〇九七万〇四〇六円、同田口典子に対し金九二一万八九三四円、同硲信夫に対し金九二一万八九三四円、同硲和夫に対し金九二一万八九三四円及びこれらに対する平成一〇年一二月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告硲トキ子に対し金九四八八万五四三七円、同田口典子に対し金一三八七万六一五九円、同硲信夫に対し金一三八七万六一五九円、同硲和夫に対し金一七四七万六一五九円及びこれらに対する平成一〇年一二月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交差点における横断中の歩行者と右折車両との衝突事故に関し、死亡した歩行者の相続人らが車両運転者に対し民法七〇九条及び自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

(一)  被告と訴外硲道生(以下「亡道生」という。)との間で、別紙交通事故目録記載のとおり、交通事故が発生した(以下「本件交通事故」という。)。

(二)  亡道生は、本件交通事故により、脳挫傷、外傷性脳出血の傷害を負い、同傷害がもとで、平成一〇年一二月二一日午後九時五〇分、医療法人錦秀会阪和記念病院において死亡した(甲第二号証)。

(三)  亡道生の死亡により、同人の損害賠償請求権を両親である訴外硲正夫(以下「亡正夫」という。)と原告硲トキ子(以下「原告トキ子」という。)が二分の一ずつ相続したが、亡正夫が平成一一年一月三一日死亡したため、同人の上記相続分を原告トキ子と亡正夫の妹である原告田口典子(以下「原告典子」という。)、弟である原告硲信夫(以下「原告信夫」という。)及び同硲和夫(以下「原告和夫」という。)らが法定相続分に従い相続した(甲第三号証、第五号証ないし第一一号証、弁論の全趣旨)。

(四)  被告加入の自賠責保険から原告らに対し、本件交通事故による損害賠償債務の填補として金三〇〇〇万円が支払われた。

二  争点

被告は、本件交通事故につき被告に過失があり、被告が民法七〇九条及び自賠法三条により損害賠償責任を負うこと自体は争わないが、後遺症による逸失利益の計算方法及び額並びに慰謝料の額について争う。

第三争点に対する判断

一  損害額

(一)  逸失利益(請求額九五〇一万三九一七円) 八八二二万七二〇八円

甲第五号証ないし第一七号証、第二四号証、第一三〇号証、原告典子、原告和夫によれば、亡道生は、父亡正夫(明治四三年八月三日生)と母原告トキ子(明治四五年三月三一日生)の長男として昭和一五年五月三一日出生し、昭和四〇年に関西学院大学理学部を卒業し、甲南大学大学院に進んで、昭和五二年理学博士号を取得した後、さらに情報処理の研究を続けながら、昭和五八年四月に愛知女子短期大学助教授となり、同六〇年四月には同短期大学教授となったが、平成五年三月に同短期大学を退職し、同年四月からは金蘭女子短期大学教授を勤める傍ら、大阪経済大学の非常勤講師を兼務していたこと、亡道生を除く原告典子ら妹弟は、昭和五三年までに結婚してそれぞれ独立したが、亡道生は生涯結婚せず、愛知女子短期大学勤務中は週末を実家で両親と共に過ごし、金蘭女子短期大学に勤務するようになった後は完全に両親と同居生活を送るようになったこと、亡正夫は、農業経済学者として大阪市立大学教授、阪南大学学長等を歴任したが、平成元年一〇月に大学を退職した後は職に就かず、受け取った年金を主に旅行費や研究費等として使いながら、もっぱら自宅において読書や研究中心の生活を送り、家事などはほとんどしたことがなく、他方、原告トキ子は、平成二年に骨粗鬆症と診断されたほか、大腸の手術をしたことなどもあって体力が低下し、食事の用意程度しかできなくなったため、結局、生活費の負担の面でも、家事労働の面でも、亡道生が両親の生活を支えていたこと、金蘭女子短期大学の定年は満七〇歳に達した年の学年末までとされており、亡道生の場合は、定年が西暦二〇一一年三月三一日となること、亡道生の同短期大学における平成一〇年度の年収は一四五三万二九三七円であったこと、大阪経済大学における勤務は、同僚の研究者に誘われてのもので、将来も継続的に勤務していくことが予定されていたこと、同大学における給与支給額は概ね年間九七万四四〇〇円であったことの各事実を認めることができる。

以上の事実に基づいて判断すると、亡道生は、死亡当時五八歳であったが、金蘭女子短期大学においては定年までの約一二年間勤務することが可能であったと認められ、また、大阪経済大学においても、通常の就労可能年数である六七歳までの約九年間程度の勤務は可能であったと考えるのが相当である。そして、上記のような高齢な両親との同居生活の状況や亡道生の収入等を総合的に考慮すると、将来の逸失利益の算定に当たって、三割五分程度の生活費控除を行うのが相当というべきである。そこで、本件交通事故当時の亡道生の上記各大学における収入額を基礎に、生活費控除割合を三割五分とした上、それぞれの就労可能年数に応じてライプニッツ方式により年五分の割合で中間利息を控除した額を合算すると、下記のとおり八八二二万七二〇八円となる。

(計算式)

14,532,937×0.65×8.8632+974,400×0.65×7.1078=88,227,208

(二)  亡道生の慰謝料(請求額三〇〇〇万円) 二四〇〇万円

亡道生は、前記のとおり学者として充実した生活を送りながら、高齢の両親と同居してこれを経済的・精神的に支えていた者であるところ、本件交通事故に遭い、一度も意識を回復することなく事故から五日後に死亡したこと、本件交通事故の態様は別紙交通事故目録記載のとおりであって、事故発生の原因は、被告が普通乗用自動車を運転して交差点を右折進行するに当たり、右折先の横断歩道上の安全確認を怠ったことにあり、亡道生には何らの過失も認められないこと、被告は、本件交通事故当時、仕事帰りに飲んだビールと焼酎の影響で呼気一リットル当たり〇・一五ミリグラムのアルコールを体内に保有する状態で加害車両を運転していたこと(甲第五七号証、第七四号証、第七五号証、第七七号証)、被告は、本件交通事故を起こしたことにより業務上過失致死罪で公訴提起され、平成一一年九月一七日、禁固一年六月、執行猶予四年間の判決を言い渡されたこと(甲第七八号証)の各事実に鑑みると、亡道生が本件交通事故により被ったであろう精神的苦痛には、極めて大きいものがあったと推察することができる。その精神的苦痛を慰謝するには二四〇〇万円が相当である。

(三)  原告ら固有の慰謝料(請求額三三六〇万円) 六〇〇万円

甲第三号証、第二五号証ないし第三一号証、第三四号証ないし第四八号証、第五一号証、第五二号証の一及び二、第六五号証、第六六号証、第六八号証ないし第七二号証、第七六号証、第七九号証ないし第一三五号証、原告典子、原告和夫によれば、亡正夫は、亡道生が本件交通事故で死亡した後体調を崩し、平成一一年一月三一日、上部消化管出血による出血性ショックにより死亡したこと、亡正夫の上記症状については、精神的な高度のストレスにより潰瘍を生じた可能性も否定はできないが、ストレスにより潰瘍を発症するかどうかには個人差があり、積極的に亡正夫の死亡と本件交通事故による亡道生の死亡の事実との因果関係を肯定することは困難であること、原告らは、敬愛していた亡道生及び亡正夫を立て続けに亡くす不運に見舞われ、それぞれに精神的・身体的変調を来し、原告トキ子においては、三人の子供たちが交替で面倒を見てくれるものの一人暮らしをせざるを得なくなり、平成一一年三月五日に肺炎を起こして同月一八日まで入院し、平成一二年三月二〇日には慢性気管支炎、肺炎、呼吸不全によりあびこ病院に入院、同年四月六日に国立療養所近畿中央病院に転院し、同年七月現在、非定型抗酸菌症により入院加療中であること、原告典子においては、心労が重なり疲れ易さや胃に不快感を覚えるようになり、平成一二年四月、慢性胃炎と診断されたこと、原告信夫においては、平成一二年四月一二日から同年五月一日まで胆のう炎等で入院治療を受けたこと、原告和夫においては、心身症(洞不全症候群)、不整脈、うつ状態、発作性心房細動その他の症状により、平成一一年七月二九日から、公立中学校教師の職を一年近くに亘って休職中であること等の事実を認めることができる。

言うまでもなく、肉親の死亡といった極度の精神的なストレスが人の心身に及ぼす影響には個人差があるし、原告らに生じた各種症状の発生については、亡道生の死亡だけでなく、亡正夫の死亡やそれに伴い残された高齢の原告トキ子の介護の問題、それぞれの家庭や職場の事情、年齢等が複合的に影響を与えているものと考えられるけれども、原告らの詳細な陳述書や法廷における供述の内容に鑑みれば、原告らが本件交通事故による亡道生の死亡により、それぞれに著しい精神的苦痛を被ったことは優にこれを認めることができるから、その精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、本件交通事故による原告ら固有の損害として認めることができる。その金額としては、前記亡道生の慰謝料額及び本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告ら一人当たり一五〇万円が相当である。

(四)  葬儀費用(請求額一五〇万円) 一五〇万円

甲第一八号証ないし第二三号証によれば、原告らが亡道生の葬儀に要した費用は、一五〇万円を下らないものと認める。

以上損害額合計 一億一九七二万七二〇八円

二  損害の填補(三〇〇〇万円)

自賠責保険から本件交通事故により発生した損害の填補として、原告らに対し三〇〇〇万円が支払われたことは、当事者間に争いがない。

損益相殺後損害額 八九七二万七二〇八円

三  弁護士費用(請求額一〇〇〇万円) 八九〇万円

上記認容額その他の事情に鑑みると、本件交通事故と相当因果関係のある弁護士費用としては八九〇万円が相当である。

損害額合計 九八六二万七二〇八円

四  原告ごとの損害額の計算

前記「争いのない事実等」記載(三)の事実によれば、原告らの相続分は、原告トキ子が四分の三、その余の原告らが各一二分の一となる。

そこで、上記損害額合計から原告ら固有の慰謝料合計六〇〇万円を控除した九二六二万七二〇八円につき、上記割合に基づいてこれを配分した後の金額に一人当たり一五〇万円の慰謝料を加算すると、下記のとおりとなる。

(原告トキ子の損害)

92,627,208÷4×3+1,500,000=70,970,406

(その余の原告ら一人当たりの損害)

92,627,208÷12+1,500,000=9,218,934

以上から、原告らの請求は、被告に対し、原告トキ子につき金七〇九七万〇四〇六円、その余の原告らにつき各金九二一万八九三四円及び上記各金額に対する本件事故の日である平成一〇年一二月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるので、右の限度で認容し、原告らのその余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 福井健太)

別紙 交通事故目録

発生日時 平成10年12月16日午後11時ころ

発生場所 大阪市住吉区苅田7丁目12番19号先交差点(大阪高石線)

加害車両 被告運転・所有の普通乗用自動車(なにわ57そ3845)

被害者 訴外硲道生(昭和15年5月31日生)

事故態様 被告は、加害車両を運転して、信号機により交通整理の行われた前記交差点に北から進入し、右折進行するに当たり、同交差点の右折方向出口には横断歩道が設けられていたのであるから、同横断歩道上の歩行者の有無及び安全を確認して右折進行すべき業務上の注意義務があるのに、前方及び左右に対する注視を欠き、同横断歩道上を青信号に従って北から南へ歩行中の被害者に気付かず、漫然と時速約30キロメートルで進行した過失により、加害車両前部を同人に衝突させ、被害者に脳挫傷、外傷性脳出血の傷害を負わせたもの

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